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前橋家庭裁判所高崎支部 昭和58年(少)1190号 決定

少年 R・Y(昭三八・一・七生)

主文

本人を中等少年院に送致する。

収容期間は一年間とする。

理由

(ぐ犯事由)

本人は、昭和五六年一一月一八日前橋家庭裁判所高崎支部において覚せい剤取締法違反により前橋保護観察所の保護観察に付されたものであるが、転職を重ねるとともに、昭和五三年五月ころから続けてきた有機溶剤等の吸入を断ち切れず、昭和五八年三月ころシンナー吸入を注意した母に対して暴力を振い、同年四月八日ころから同年七月二一日ころまで精神病院に入院したが、その後も定職に就かず、怠惰な日々を送り、シンナー吸入を繰り返しているものであり、保護者の正当な監督に服しない性癖があり、自己の徳性を害する性癖があつて、このまま放置すれば、その性格又は環境に照らして、将来、毒物及び劇物取締法違反等の罪を犯す虞れのあるものである。

(法令の適用)

少年法三条一項三号イ、ニ

(処遇)

本人は、現在上記の保護観察が継続中であり、この間昭和五八年一月七日に満二〇歳となつたものであるが、上記ぐ犯事由に基づき同年九月一九日前橋保護観察所長から犯罪者予防更生法四二条一項により当裁判所に通告されたものである。

本人は、中学二年生時に父が病死したことから生活態度が乱れ始め、昭和五三年四月に県立高校進学後間もなく、怠学、シンナー吸入等が始まり、同年五月末同校を中退し、その後就職しても長続きせず、シンナー吸入や不良交遊を続け、昭和五四年八月には窃盗未遂により、昭和五五年九月にはシンナー吸入によりそれぞれ当庁で不処分決定を受け、更に、知人から覚せい剤を注射してもらつたことで上記のように昭和五六年一一月一八日当庁で保護観察処分を受けるに至つたものである。しかし、本人は、その後も保護観察所等からの度重なる注意指導にもかかわらず、生活態度を改めることなく、怠勤、転職を繰り返し、シンナー吸入を継続し、昭和五八年三月ころシンナー吸入を注意した母に何度か暴力を振つたことから、周囲の働きかけでシンナー依存の傾向を断ち切るため約三か月間精神病院に入院させられたが、事態は好転せず、同年八月中旬ころからは仕事に行かずに自室にこもつてシンナー吸入にふけり、無気力で怠惰な毎日を送つてきているものである。

本人は、自我の発達が未熟で、年齢相応に社会的に自立した生活を送ることができず、自己統制力が弱く、困難に直面すると悲観的となり、不満の解消を薬物等に依存しやすい傾向が認められ、今回の保護観察の中でも自己を改善しようとする意欲に乏しく、精神的向上は認められず、現在でも今後の具体的な生活設計が持てない状況にある。

本人の家族は、前記のように父が死亡しており、祖父母、母及び弟二人であるが、祖父母は高齢であり、母は仕事に追われ、本人を適切に指導する力はなく、本人の行状に手を焼いている状態である。

以上のような本人の行動、生活歴、性格、資質等にかんがみれば、本人が満二〇歳に達しているとはいえ、なお、少年法による処遇が有効適切であると認められ、本人を少年院に収容して規律ある矯正教育を施し、正しい生活習慣と勤労意欲を涵養するとともに、自己規制力を養わせ、薬物への依存心を断ち切る必要性は極めて大きいものと認められる。

そこで、本人を処遇すべき少年院について検討するに、本人は既に二〇歳に達しているので年齢の点からいえば特別少年院における処遇が考えられるところであるが、本人は、これまで施設収容歴がなく、上記の諸点から明らかなようにシンナー吸入及びそれに関連する生活態度が主たる問題点であつて、それ以外の面での非行性は顕著なものがあるとはいえず、少年院法二条四項所定の犯罪的傾向が進んでいるとは認め難く、また、その性格的特性からみても、特別少年院におけるよりも中等少年院での教育の方が本人に対する処遇としては適切であり、効果も上げやすいものと認められ、鑑別結果通知書の意見でも中等少年院における処遇が適当であるとしていることを考慮し、中等少年院における教育に期待することとする。

次に、その収容期間としては、シンナー使用歴が長く、本人の資質等からみて生活指導が効を奏するには相当程度長期の期間が必要と認められること等を総合すると一年間とするのが相当である。

よつて、犯罪者予防更生法四二条、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項後段、少年院法二条により、主文のとおり決定する。

(裁判官 今泉秀和)

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